Resource

プレイス・ブランディングとは?
〜 民間企業による「場」を活かしたブランド戦略が求められる時代へ 〜

2020-12-03

Summary

「プレイス・ブランディング」とは、「場」が持つ人・文化・環境・歴史・社会性・経済性など多層的な価値と資源を統合し、現代に求められる「地域資本」を創出しながらブランド構築を進めていくプロセスです。場の魅力と人の好奇心を結びつけるための「文脈づくり」とも言えます。

これまでプレイス・ブランディングは、その地に拠点を置き、資源を持つ行政や政府機関、不動産ディベロッパー、航空・鉄道会社といったプレーヤーが中心的に展開してきました。アートや美食といった文脈で観光客を集めたり、クリエイティブやテックといった文脈でクリエイターやスタートアップ等を誘致したりと、各社はその地域の魅力と世界中の人々の好奇心を結びつけながら、人々の移動を促してきました。

しかし、テクノロジーの進化やコロナショックなどにより、人類にとって「移動」にまつわる環境や常識がアップデートされていく中で「場」の価値は今まで以上に高まります。そうした時、プレイス・ブランディングは上記のようなこれまでのプレーヤーだけでなく、あらゆる企業のブランド戦略にとって無視できないものになっていくと考えています。

インターネットが全ての産業に影響を与えたように、これからは「移動」にまつわるサービスや付加価値を創出することが人類にとって価値ある事になり、多くの産業が影響を受けていく事になるでしょう。

そこで、このページではプレイス・ブランディングの概念を中心にご紹介します。
場を活用したブランディング戦略にご興味がある方は是非、ご覧下さい!

目次
① プレイス・ブランディングとは?(Part1 概要編)
② 何故「プレイス・ブランディング」が重要か?
③ プレイス・ブランディングとは?(Part2 フレームワークのご紹介)
④ プレイス・ブランディングにおけるデジタルの重要性
⑤ プレイス・ブランディングのこれから

① プレイス・ブランディングとは?(概要編)

プレイス・ブランディングは、「場」が持つ人・文化・環境・歴史・社会性・経済性など多層的な価値と資源を統合し、現代に求められる「地域資本」を創出しながらブランド構築を進めていくプロセスです。

国連世界観光機構(UNWTO)は、2030年までに世界の移動人口は18億人に達すると予測しており、世界は「大移動時代」を迎えています。同時に、人類史上最大の規模感で人々が移動するという事は、世界で「地域間競争」が激化していく事を意味します。インターネットによって人々は世界中のユニークな場を発見できるようになった一方で、溢れる情報の中で埋れていく場も沢山ある事を認識しなければなりません。有限な時間の中で人々が特定の「場」を選び、訪れるにはこれまで以上に「意味」が求められ、選ばれる理由を強固にしていく必要があります。

「選ばれる場」になれるか否かは、すなわちその場にブランド価値があるか否かによって大きく左右されます。このブランド価値を作るプロセスこそが、プレイス・ブランディングです。

場のブランディングと聞くと、日本では「地域ブランディング」や「エリア・ブランディング」といった言葉の方が普及していますが、どうしても地域産品を中心とした施策となり、地域空間の本質的且つ中長期的な価値の創造に繋がりにくいケースが散見されます。しかし、プレイス・ブランディングとこれらには明確な違いがあります。まさに「プレイス」という概念が対象とする「場の定義」を理解する事で違いが明確になってきますので、少し「プレイス」について見ていきましょう。

「デスティネーション」から「プレイス」へ

「場」のブランディング領域において、プレイス・ブランディングは進化系とも言えます。

歴史的な観点でプレイス・ブランディングを捉えると、かつてはプレイス・ブランディングよりも「デスティネーション・ブランディング」が主流でした。飛行機などでの移動コストが高い時代では、海を越えた”人の移動量”は限定的でした。そのため、観光名所・地名が中心となる大きな単位でのレイヤーでブランド構築ができれば人の移動を促す事ができました。しかし、インターネットと移動コストの変化に伴い移動人口が増えるにつれて、人々の旅に対する解像度は細やかになっていきました。

人はかつてのように、観光名所といった単一のデスティネーションを目掛けて旅をするスタイルよりも、人・風土・自然・食・音楽・建築・歴史・哲学といったあらゆる要素が凝縮された、その土地ならではのローカルな魅力を求めるスタイルに惹かれています。言語化しにくいその場所の”空気感”や”匂い”、といったものも含めて、その場所のストーリーに触れる事に価値を見出す志向性がそこにはあります。

こうした背景から、プレイス・ブランディングが扱う「場」の単位は物理的に定義されるものから、”意味性”を定義・追求する領域に広がっており、現在では主に以下の3つが対象となります:

プレイス・ブランディングが扱う3つの「場」:
① デスティネーション・ブランド(目的地を軸にしたブランド構築)
② ジオグラフィック・ブランド(地名を軸にしたブランド構築)
③ セマティック・ブランド(テーマ性を軸にしたブランド構築)


日本国内で馴染みのある「地域ブランディング」「エリア・ブランディング」は、多くの場合、①と②を指しています。しかし、これから地域間競争が激化していく中では③が極めて重要になります。

この記事では、①②も簡単にご紹介しつつも、③に比重を置いて紹介します。

「意味を持つ空間単位」としてのプレイスが重要に

「セマティック・ブランド」(テーマ性を軸にしたブランド構築)における「プレイス」は、人々にとって「意味を持つ空間単位」を指します。

ここで注目したいのは、この「空間単位」が地理的に定められている定義とは”異なる”点です。
例えば、国、都道府県や市区町村といった場の単位は地理的に定められている定義であり、誰にとっても共通の理解がされる対象です。上記の①や②が対象とするのはまさにこの領域です。
一方、「セマティック・ブランド」における「プレイス」は、そこに関わる人たちが「テーマ性」と「意味性を感じる場の単位」が連動している事が大切です。その範囲は柔軟に設定され、よりパーソナルな価値観と紐付き、共感レベルによって場の解釈や見方が大きく分かれる可能性があります。「渋谷」は多くの人が何かしらのイメージを想起する一方で、「奥渋谷」と言われた時に価値を想起する人とそうでない人はわかれる、といった具合です。

プレイス=場の単位は、一つのお店、一本の道、特定のビル群の集まり、複数の県を束ねたものなど、規模の大小様々です。この規模の振れ幅に広がりが生まれている点こそ、現代社会における「場」を考える上でとても大切です。プレイス・ブランディングは、こうした多様な「場」に意味付けをしていく上で大きな役目を果たします。

プレイス・ブランディングの「主体」は誰か?

プレイス・ブランディングにおいて重要なのは、その「主体が自由」であるということ。

例えば、「地域創生」や「地域活性化」と聞くと、その地域のステークホルダーは全国各地の自治体や地場に長い歴史を持つ企業から構成された、どこか固定的なイメージを持たれるかもしれません。或いは、投資家やディベロッパーなど、不動産領域と密接に関わる企業が中心と思われるかもしれません。
一方、プレイス・ブランディングにおいては上述した通り、その空間単位に意味を付与できるステークホルダーから構成されるべきもので、新たなプレーヤーによる参画は不可欠です。
従来、地域との関わりがなかったブランド、人、チームこそ、新たな視点を持ち込む可能性を秘めています。もちろん、場のブランド戦略を練っていく上で、その地域に根付いたステークホルダーとのパートナーシップは欠かせませんが、異なるバックグラウンドを持つ人々が多様な視点を地域に持ち込むことで、地域の新たな魅力が光るのです。

近年、既にこの兆候は表出しています。

アウトドア・ブランドのスノーピークは長野県白馬村と包括連携協定を結び、Field Suite Kitaone Kogenというグランピング施設や”人生と野遊びの案内所”としてLand Station Hakubaを手掛けています。白馬が持つ「場の魅力」とスノーピークの「世界観」を結びつけながら、新しい角度で自然の豊かさを楽しめる体験を顧客に届けようとしています。どちらの施設も地元生産者と顧客を繋ぐためにダイニングサービスやマルシェなどのイベントも展開。こうした地域連携を深めながら、”野遊びの文脈”で長野の価値を総動員しながら顧客体験を作り込むアプローチは、ますます体験価値が問われる多くのブランドにとって示唆のある取り組みではないでしょうか。

デトロイト発のShinolaは、財政破綻し、地域経済が荒れ果てたデトロイトに製造業を取り戻すべく、時計の製造販売をスタートしたブランド。その後、革小物や雑貨類も手掛ける同ブランドは、2019年にホテルをデトロイトにオープンし、デトロイトの物づくりとライフスタイルを伝える文化交流の場として展開しています。同時に、デトロイト住民にとっては、デトロイト復興を象徴するランドマークであり、地元愛と誇りを再び持てる契機にもなっています。一つのブランドが創業エリアにおける地域一帯の物語を背負いながらブランド展開していく方法は、とてもパワフルでありながらも、多くのブランドにとっても取り組む余地のあるものではないでしょうか。

Nikeは三井不動産レジデンシャルと共同で豊洲にスポーツ施設を作っています。ランニング、バスケ、スケートと多様なスポーツを楽しめるエリアや広場などが整備されています。
公園のようなパブリック・スペースを民間企業が手掛けることは決して多くありません。
しかし、行政だけに頼っていては、公共空間の整備が行き渡らないからこそ、こうした民間企業による公共の場は非常に価値があります。この施設プロジェクトには、インクルーシブ・プレイグラウンドと呼ばれる、年齢や障害者などを問わず、誰もが楽しめる公園デザインを支援する米国ポートランドのNPOハーパーズ・プレイグラウンドも参画。車椅子での移動も考慮されているだけでなく、ジェンダーレス・トイレなど、インクルーシブな視点での設計が反映されています。

こうした様々な例は、ブランドがより地域と共に作れる価値を見出し、「ブランドと場の関係性」をアップデートする行為であり、新たなブランド資本を築くための事業機会でもあります。あらゆるブランドにとって、社会的意義がより求められる現代において、1社単独でブランド資本を築くのではなく、より地域連携を深める社会性の高いあり方を具現化する動きとしても注目すべきではないでしょうか。

後述しますが、私たちはこうしたプレイス・ブランディングにおける「主体の多様性」が生まれた時、これまでに無い地域の魅力が掘り起こされ、ここに大きなポテンシャルがあると考えています。

② 何故「プレイス・ブランディング」が重要か?

場の未来を考える時、移動の未来を考えなければなりません。

これから「移動のあり方」が変わっていく中で、移動先として選ばれる場も変わります。
こうした中で、プレイス・ブランディングは変わりゆく移動の動機や欲求を捉えるため、場の価値を創造するために極めて重要な役割を果たします。

社会全体を見渡せば、単一的な経済性を追うだけでは幸せになれない事を社会が理解していくにつれて、人は自分にとっての「意味」を大事にして生きていくようになります。自分の有限な時間を意義のある事に使うにはどうすればいいのか。その生き方自体を一人一人がデザインしていく時代です。
これからの移動や旅も同じように、単なる旅ではなく「意味のある旅」へと価値軸がシフトしていくと考えています。そして、この「意味のある旅」を引き起こしていくプロセスにこそ、プレイス・ブランディングが欠かせないものとなります。

「意味のある旅(移動)」を求める社会に

誰もが知っている観光名所に行く事にも価値はありますが、自分が本当に心を動かされる体験を得たり、自分の価値観を揺さぶる人との出会いがあったり、自分の好きを更に深めたりするような旅に人々は価値を見出していくようになるでしょう。こうした「意味のある旅」を求める時、人は必然的に希少性の高いローカルな魅力を求めるようになります。これは観光だけでなく、仕事や生き方を追い求める場合でも同じです。「フランスに行きたい」「ニューヨークに行きたい」といった漠然とした解像度ではなく、「フランスのアルザス地方発のナチュールワイン醸造家に会いたい」「ニューヨークのブルックリンに増えている屋上農園の実態を知りたい」といったように、より具体的な意味を求めて場を選び取っていきます。

こうした、特定の場にわざわざ行く「意味」を場に持たせるためには、何故その場に行くべきなのかという「価値作り(体験作りも含む)」と、その場を認知してもらうための「認知作り」を満たす必要があり、これらを設計していくことがまさにプレイス・ブランディングです。

人々が「意味のある旅」を求める背景には無数の要素があると思いますが、私たちとして注目している要素は二つあります。1つは「場所の発見性の向上」。もう1つは「旅・移動リテラシーの向上」です。

「場所の発見性」

インターネットによって、人類は辺境な地でも探し当て、訪れる事ができるようになりました。インターネット以前は知り得なかった地域の魅力をインターネットの力によって出会えるようになりました。
美食家にとって、地域食材を日々研究するシェフが営むレストランでの食体験を求めに、何時間もかけて旅する事は魅力的な「フードトリップ」であるように、その人が好きな領域を追求する旅は人をあらゆる辺境へと誘います。こうして、世界のあらゆる場に人が訪れる可能性が生み出された一方、地域に関する情報の選択肢は増え、その分、人は行く価値のある体験を吟味し、旅をする意味を精査していきます。

「旅・移動リテラシーの向上」

2030年までに18億人もの人が「移動人口」になる事は上述した通りです。
人類に知的好奇心がある限り、人類は旅という未知なる体験や特定の場所でしか体験できない希少価値を求め続けるものだと考えています。そしてその豊かな体験に求める希求レベルは、旅リテラシーの向上と共により深くなり、これが旅の意味性を追求するドライバーになると感じています。

世界の様々な大都市に行ってみると、均質化している点が多い事にも気づきます。
この反動として、均質化されていない世界を求める傾向も強まります。
加えて、どんなにその地域が魅力的でも、一人の”観光客”として訪れるだけでは、その地域の深部には触れにくいことも多くの人が経験から感じていることでしょう。そうした中で、より深い体験をするためには、地元住民の方と一緒に何かをする、仕事として関わってみるなど、地域と違った関わり方を潜在的に求めています。この感覚が「意味ある旅」を求める要因にもなっているのではないでしょうか。

地域間競争が激化するからこそ、独自のブランドポジションを確立する

さて、旅にまつわる価値観や環境が変わっていく中で、地域の目線で考えるとどういう事なのか。
世界中のローカルな場所が探しやすくなっているという事は、言い換えれば、それだけローカル情報が溢れるため地域間競争が激しくなり、しっかりと魅力が際立っていなければその場所は選ばれないという事でもあります。

上述したように、場をブランディングしていく上ではそもそもの価値作りと認知作りの両方が欠かせません。その際に、商品やサービスと同様に場のブランディングにおいてもそのポジショニング戦略は考え抜く必要があり、独自のブランドポジションを形成していく事が必要になります。
人々がローカル性の高い「意味ある旅」を求める時代潮流と場をどう結びつけていくのか。
そのグランドデザインを設計していくことがまさにプレイス・ブランディングの役目です。

③ プレイス・ブランディングとは?(Part 2 フレームワーク紹介)

センス・オブ・プレイス(Sense of Place)を醸成する

プレイス・ブランディングを考えるフレームワークをご紹介する前に、プレイス・ブランディング特有の概念である「センス・オブ・プレイス」について少しだけご紹介します。

「ブランド」は、人の心と頭に存在するものです。
だからこそ扱いも難しく、誤解も多い領域ですが、場のブランドも同じです。

ある場に対して、どのような感情を抱くか、イメージを想起するか、行動を起こしたくなるか。
こうした概念的な輪郭を形成していくために、プレイス・ブランディングの世界では「センス・オブ・プレイス」を大事にします。

まさに「場の感覚」であり、人々が綺麗に言語化できないものを言葉として見つけていくプロセスと、新たな言葉として認識されるように仕掛けていくプロセスの両方において重要になります。
この時、「文化都市」といったように、どの場にも当てはまるような当たり障りの無い言葉では、強い場は作れません。より具体的で、地元民は腑に落ちる言葉、地域外の人々にとっては何かしらの感情を喚起する言葉を見つけていく必要があります。

プレイス・ブランディングにおけるフレームワーク

場のブランド構築を行う際に、モノやサービスと異なる場特有の難しさが存在します。
最大の難しさはやはりステークホルダーが多い事。BtoB、BtoC、BtoGだけでなく既存市民なども含まれ、実に多様です。場や地域は、全人類にとって生きる上でのプラットフォームですので、当然こうした複雑性は生まれます。しかし、複雑なものを複雑なものとして打ち出すことはブランディングの本質から外れるため、複雑さの先にあるシンプルな姿を導くために、私たちは以下のようなフレームワークも用いながらブランド価値の設計を考えていきます。

*本記事ではこのフレークワークの詳細には触れませんので、ご了承下さい。
また機会を改めて詳細をご紹介したいと思います。

本フレームワークは、中央にある半円(Place Purpose)から外に向かって各要素が記載されていますので、レイヤー毎に概要をお伝えします。なお、全体の長方形の左半分が「地域外とのトランザクションが有る」もの、右半分が「地域外のトランザクションが無い」ものですので、そちらも俯瞰した上でご覧下さい。

・プレイス・パーパス(Place Purpose)
最も核となるのが「プレイス・パーパス」です。
近年のブランディング理論では「ブランド・パーパス」というブランドの存在意義をきちんと定義していくことの重要性が挙げられていますが、場も同じです。
場の存在意義はなんなのか?場が大事にしたい価値観はなんなのか?これを突き詰めていくプロセスの中で共通認識としてのプレイス・パーパスを導き出します。

・プレイス・コンセプト(Place Concept)
場の存在意義を果たすために、どういった価値やファンクションを提供する場なのか。
その世界観はどんなものなのか。こうした要素を社会と共有していくためのコンセプトがこのレイヤーとなります。上述した「センス・オブ・プレイス」は、このコンセプトの方向性を定める上でも重要な要素となります。

・5つの領域(観光 / 投資 / 輸出 / 暮らし / 働き方)
プレイス・コンセプトの一つ外側にある5つの領域は、プレイス・コンセプトが具体的に反映される主要な領域を指しています。左半分にある「観光」「投資」「輸出」は、場の外にいる人たちに向けられた領域(地域外とのトランザクション「有り」と表現)で、右半分にある「暮らし」と「働き方」は既に場にいる人たちに(住民)向けられた領域(地域外とのトランザクション「無し」)です。もちろん、ある場所の働き方の文化が素晴らしいため、外からそのライフスタイルを求めて移住してくる、という流れは存在します。その意味では、住民向けの満足度を高めることこそが結果的に、外からも人を招き入れる磁力になることは大切にすべき視点です。

・5つの領域が求める「必要な価値」
観光であれば「体験の深度」、投資であれば「事業優位性」といったように、5つの異なる領域にとって、最も核となる価値を一言で記載したものです。もちろん全てのケースに当てはまるものではありません。個々の場に応じて必要な価値を定義していくことが前提となりますが、北極星がどこにあるのかを明確にすることがここでは大切になります。

・既存ユーザー
既に場の価値の恩恵を受けている人たちを明確にすることがこのレイヤーの目的です。
既存ユーザーが今の場に感じている価値は何か、それは今後も継続していくのか、新しい価値を創出する中で既存ユーザーとの関係性は変わるのかなど、変えるものと変えないものを整理し、それに対して既存ユーザーがどういう立ち位置になるのかを考え抜きたいポイントです。また、後述する「潜在ユーザー」との棲み分けを考える上でも重要になります。

・潜在ユーザー
「白地」を表現する上でも、この潜在ユーザーは白くなっていますが、やはりプレイス・ブランディングを実施した結果、潜在ユーザーに響かせていく事は欠かせないポイントです。どこに、どんな潜在ユーザーの存在が考えられるのかを明確にしていき、従来とは異なるアプローチで接点を作っていく事が求められるでしょう。潜在ユーザーを特定する上で、机上の空論では成立しないため、特定の層に対する具体的なインサイトを持つ事も欠かせません。
図の下にはPlace MarketingやPlace Brandingの文字がありますが、既存ユーザーや潜在ユーザーにリーチしていくプロセスは「プレイス・マーケティング」の領域でもあります。細分化された現代において、リーチしたい層に対する細やかなアプローチを編み出すのがマーケティングで問われます。

④ プレイス・ブランディングにおけるデジタルの重要性

多くの産業のデジタルシフトが加速する中で「プレイスのデジタルシフト」も当然ながら起きてきます。
バズワード気味なDX(デジタル・トランスフォメーション)ですが、デジタルを場の価値作りにおける根幹に据えた場合、新たな可能性が生まれてきます。

これまで地方創生や地域ブランディング、エリアブランディングを展開していく中で、多くの場合、そのエリアに「物理的に来られる人」を対象にしがちでしたが、実際に訪問できない人たちが世界人口の大半である事実に目を向けると、むしろ「訪れる事ができなくとも関係性を築ける人」にも活路を見出すべきではないでしょうか。もちろん、その土地に実際に行かなければ味わえない、理解できない魅力は沢山ありますので、その土地に直接行く事の価値は疑う余地はありません。一方で、京都やアムステルダムのように特定の観光名所に観光客が殺到し、観光客同士だけでなく地元住民へのマイナスインパクトを引き起こすジェントリフィケーションも悩ましい課題です。また地域への流入人数が増えても、必ずしも税収に繋がったり、地域経済にお金が循環したりするとは限らず、地域が疲弊するだけのケースもあります。そのため、事業運営におけるよりサステナブルな取り組みが求められます。

関係人口よりも、「創造人口」

こうした背景もあって近年では「関係人口」の概念も徐々に広まっていますが、私たちは単なる「関係人口」ではなく、より地域の付加価値作りに貢献する「創造人口」の創出こそが重要だと考えています。
地域価値を高める事のゴールが「人口の移住」ではなく、地域に創造的なリソースを投下してもらえる人口の増加を重視する考え方です。

人口移住をゴールにする場合、どうしても住環境、教育機関、病院といった生活インフラを整えるためのハード面の投資は欠かせないものになります。すると、地域活性が実現するまでの時間がかかりすぎてしまう事、財源がある地域とそうでない地域とで格差が起こりやすくなってしまう事、ターゲットになり得る層が狭まってしまい結果的に地域間競争が激化する事などが起きてしまいます(例えば、独身の方がファミリー層よりも移住ハードルは低いため独身層を取り合う事になるなど)。
特に最後の「人口移住が可能なターゲット層」については、人口減少に直面する国内人口を考えれば、その規模は先細りする一方ですので、代案を準備することは急務です。

大事なことは、移住か否かの二元論ではなく、住民ではない現在から移住するまでの間にある様々な階段を埋めるための具体的なアプローチが必要です。

イベント経済効果300億円を生み出すSXSW

アメリカのテキサス州オースティン発のSXSW(サウス・バイ・サウスウェスト)は、世界に先駆けてイノベーティブな企業・プロダクト・サービスに出会える場として世界的な地位を作りあげてきた一大イベント。オースティンは、まずは移住ではなくSXSWの時期だけに訪れるユーザーを最大化する事を追求した結果、イベントによる経済効果を300億円にまで引き上げる事に成功しています。

上述したように移住をゴールに据えると、一気に生活インフラを整える必要があるため投資規模も膨らみがちですが、イベント時に限り、世界中から集まる人たちへの受け入れ態勢を整える事から始めれば投資は一定範囲におさめる事ができます。

またSXSWにおいて軽視してはならないのは、実際にSXSWに行ったことがない人でもSXSWを話題にすることです。特にSXSW開催時期は連日、現地で発表されるイノベーション性に満ちた情報が世界中で発信され、メディアだけでなく個人もその熱気に包まれます。SXSWに関心はあるが、オースティンに直接行った事がない人たちもオースティンの関係人口と呼んだ場合、まずは関係人口の裾野を継続的に広げることでオースティンという場の認知が広がり、その認知の広さが結果的に創造人口の創出にも寄与するため、場が持つストーリーの力強さを再認識する必要があります。

イベントを目掛けて世界中から人々が集まり、そこで得た体験や出会いがきっかけで次はオースティンにスタートアップが拠点を構える、という流れも生まれています。中でも中国系企業の集積は加速しています。オースティン市長であるスティーブ・アドラー氏も自ら中国にトップセールスを仕掛け、中国企業の誘致に注力しています。2018年時点で100名もの中国代表団がSXSW視察に訪れており、中国のテックハブである成都市からの訪問者数が最大となっています。

はじめは、テック・スタートアップがオースティンに拠点を置く理由がないところからプレイス・ブランディングが始まりましたが、企業の集積を武器にスタートアップ都市としての魅力を磨いてきた結果と言えるのではないでしょうか。

電子政府エストニア

電子居住権を2014年から発行し始めた電子政府・エストニアは、デジタルを駆使し、EU市場進出というメリットを謳いながら世界中から法人誘致を進めています。また、限られた予算で地域活性化を目指す際に、情報発信拠点としてクラウドファンディングが活用される機会も増えています。

またコロナ禍への対応として、いち早く「デジタルノマド・ビザ(Digital Nomad Visa)」を受け入れる事も2020年8月に発表しています。このビザを使えば、政府が定める複数の条件を満たした人は1年間の滞在が可能になります。こうした施策は、職能なども問われがちですがエストニアの場合は、一定の収入レベルを越え、地理的な制約がなく働く事ができ、エストニア国外との雇用関係又は業務委託契約がある人であれば応募が可能となります。

こうして、エストニアはデジタルの可能性を最大限活かしながら、自国民以外の人たちとの関係構築を積極的に進めながら、自国の成長に結びつける努力をしています。人口減少に直面している日本にとって、全国の地域がやるべきは、国内人口だけでなくこうした海外人口との関係構築です。

⑤ プレイス・ブランディングのこれから

私たちは、これまでプレイス・ブランディングに無縁だった企業がプレイス・ブランディング戦略を展開する事に大きな可能性があると考えます。

例えば、ある地域に出自や関係性を持つブランドが、エリア一帯をブランド体験のプラットフォームとして提供する手法です。エリア性をブランド戦略に組み込むことで、新しい認知経路を形成し、深いブランド体験を創出することができると考えています。

エリア一帯をブランド体験のプラットフォームとして見立てた時に、どんな価値を創出できるか。
その場を使って、ブランドとユーザーとの間でどんな関係性を築けるか。

場そのもののブランド価値を高めようとするアプローチだけでなく、場の価値を自社のブランド価値と紐付けながら総合的にブランディングしていくアプローチです。
本業を通じて地域の価値も高めていく。そうしたCSV(Creating Shared Value)としてのプレイス・ブランディングのあり方は今後より重要性を高めると考えています。


マーケティングの4Pや7Pフレークワークにも「Place」はありますが、従来的にこのPlaceはあくまでも「流通先」「販売先」といった意味での”場所”を中心的に指していました。しかし、プレイス・ブランディング及びプレイス・マーケティングがあらゆる企業にとって考えるべき戦略になる時、Placeは、むしろ「場」そのものをいかにして企業のブランド戦略の中に組み込むか、という意味でのPlaceとしても考えるべきではないかと考えています。

キーワード:

・街に固有の個性を与えるのは、「人」と「密度」。
場づくりにおいて大事なのは、絶対人口ではなく、お互いに面白がれる人口の「密度」。
アメリカ映画によく出てくるホームパーティのシーンがありますが、こうしたパーティではいつもキッチンに人が集まります。なぜか?それは、キッチンが最も人口密度が高まりやすく、会話が始まりやすいからです。この現象と同じように、広範な場所に人が点在してしまうと、コミュニティは生まれません。コミュニティにおいては、人と衝突しやすい一定の密度があることが鍵です。そして、単に密度があるだけでなく、その密度の中にある個性が場を豊かにしていきます。

・ブランド・ツーリズム
お茶の産地を巡り、地元食材とのペアリングなど、地域ならではのお茶体験を楽しむティー・ツーリズム。
スポーツブランドが高地での低酸素トレーニングを目的としたスポーツ・ツーリズム。
こうした、ブランドが持つ知見やネットワークなどの資産と地域を結びつけ、人の新たな移動を促す体験を私たちは「ブランド・ツーリズム」と呼んでいます。モノよりもコトと呼ばれて久しい中で、移動にまつわるブランド体験設計はまだまだ発展途上。新しい旅の目的を是非、作りましょう。

・ネイバーフッドという単位に可能性あり
「場」が持つ磁力を高めるのは規模よりも、手触りが感じられる単位のネイバーフッド。
パリもコロナショックを受けて、あらゆる生活サービスを15分圏内にアクセル可能にするための「15分都市構想」(15 Minute City)が新たな都市計画として発表されていますが、住宅からの徒歩圏内を豊かにしていくことはこれから非常に重要になります。逆に言えば、大型都市開発を手掛ける不動産デベロッパーのような存在でなくとも、人が魅力を感じる場づくりはできるということでもあります。
これまでプレイス・ブランディングに関わってこなかったブランドにとっては追い風になるトレンドです。

・より具体的なターゲット層のために作られた、特化型の場づくり
オーストラリアのカフェ文化を象徴する存在として知られるHigher Groundを手掛けたNathan Tolemanが現在、運営するのは「シェフのための農業コミュニティスペース」のCommon Ground Project。ここが提供するプログラムの会員レストランは、週に1回そこで働くシェフがこの場所に派遣されます。シェフは、朝のメディテーションプログラム、他のシェフ達との朝食、畑仕事やその日のメニューを考える、といった日常から離れた時間を過ごすことができます。労働時間も長いシェフにとって、こうしたのびやかなファームでの時間は心身を癒せる場として機能しています。また、畑で採れた野菜は週に1回、会員レストランに届けられ、双方にとって良い循環が生まれる関係性が育まれます。
こうした場づくりと、人が参画したくなる具体的なプログラムを作ることで、その場に拠点がなくとも定期的な人の循環を創出し、地方創生に活かすことは、日本においても十分に可能なはずです。

*Higher Groundのインテリア設計を手掛けたオーストラリアのDesignOfficeは、以前、私たちが作ったドキュメンタリー動画(ファウンダーズ・チョイス メルボルン編)に登場していますのでご興味ある方はこちらもご覧下さい。

長くなりましたが、プレイス・ブランディングの概念を簡単にご紹介しました。
少しでもイメージを掴んで頂ければ幸いです。

ATTIQUE エリアデザイン・カンパニー

私たちは「選ばれる場」をつくる、プレイス・ブランディング専門集団です。
大手不動産ディベロッパーのプレイス・ブランディング戦略も多数手掛けていますが、規模の大小を問わず、プレイス・ブランディングの知見を活かしたご提案をします。いつでも、お気軽にご相談ください!