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プレイス・ブランディング事例
循環型経済都市「サーキュラー・シティ」を追求するアムステルダム

2021-01-12

Summary

世界に先駆けて循環型社会を軸にした都市構想「サーキュラー・シティ」を掲げながら社会改革を進めるオランダの首都アムステルダム。2050年までに完全な循環経済を目指す野心的な構想の元に、サーキュラー・エコノミーを推進するスタートアップの集積も起きており、サステナブルな社会構築が求められる中でアムステルダム市のブランド戦略は大きな注目を集めています。2020年4月に2020年から2025年までの5ヵ年計画も発表されたので、計画内容に触れながらサーキュラー・シティ構想をご紹介します。

目次
サーキュラー・エコノミーとは?
サーキュラー・シティ構想について(概要)
2020-2025年までの5カ年計画

サーキュラー・エコノミーとは?

サーキュラー・エコノミーとは、「資源」が調達→製造→利用→廃棄というリニア(線形)なバリューチェーンを辿っていたこれまでの経済システムではなく、「廃棄」されていた製品や原材料などを新たな”資源”として再利用する「循環」を前提としたバリューチェーンを実現する経済システムです。言い換えれば、廃棄物を最小限に抑えるための経済システムと言えます。20世紀の産業化と都市化が進んだ事により、今や世界中で生産されるエネルギーの2/3は都市が消費しています。また天然資源の消費は40年間の間に年267億トン(1970年)から844億トン(2015年)へと3倍になり、2050年には1700億から1840億トンになると予想されています。こうした様々な「過剰消費」を続ける社会に歯止めをかけるためのサーキュラー・エコノミーですが、何故サーキュラー・エコノミーがパラダイムシフトを生み出しうるのか。それは、循環を生み出す上で従来のような再利用やリサイクルといったバリューチェーンへの部分的なアプローチではなく、原材料調達や製品デザインのフェーズから廃棄を最小化することが思想として組み込まれており、バリューチェーンが根底から刷新されるからです。サプライチェーン/バリューチェーン全体を再設計する中で、化石燃料から再生可能エネルギーに切り替えたり、廃棄物を極力生まないものづくり手法を開発したり、資源のシェアを促すサービスを作ったりするなど、多角的なイノベーションが期待されます。

「サーキュラー・シティ」構想について

2015年頃からサーキュラー・シティを目指す構想を打ち立ててきたアムステルダムは、2030年までには第一次原材料資源の使用率を半減させ、2050年までには完全なる循環経済を達成するという野心的な目標を打ち立てています。この構想の実現に向けた戦略の最も特徴的な事は、ドーナツ経済学モデルを軸にした独自のフレームワークを起用している事です。そしてこのフレームワークをベースに3つの重点領域を2020-2025年の5ヵ年計画のなかで特定していますので、ここではそれらの概要をまとめています。

「21世紀のコンパス」 - ドーナツ経済学モデルを採用した都市政策へ

サーキュラー・シティを実現していくにあたりアムステルダム市は、英オックスフォード大学環境変動研究所のエコノミストKate Raworth(ケイト・ラワース)が提唱するドーナツ型フレームワークモデルを起用し(ケイト・ラワースのベストセラーの『ドーナツ経済学が世界を救う』はこちら)、都市版ドーナツ経済学モデルを構築(構想の全体像はこちらの資料を参照ください)。このドーナツ経済学モデルは、市が掲げる戦略の根幹となりますので、まずはドーナツモデルを簡単にご紹介しましょう。

まず、ドーナツは内側と外側の円に分かれています。
内側は「社会基盤」と定義。SDGsを満たしながら、人類の暮らしに必要な要素が描かれています。食、健康、男女平等、住環境、教育、政治的発言権、収入をはじめ12個の要素が掲載されています。
外側は、「生態学的な境界」(ecological ceiling)と定義。気候変動、化学汚染、オゾン層、生物多様性など、地球においてグローバルレベルで環境負荷がかかっていながらも、生命維持を担う上で欠かせない9つの要素が掲載。

これを踏まえ、この「内側と外側の間」の領域こそが地球と人類にとって最もサステナブルなあり方を追求できる領域であると定めています。この理想の姿に対して、現在の人類は既に様々な自然環境領域を浸食しているため、これらを是正していくことが求められていきます。今一度サステナブルな都市、そして社会を作るためにも、内側と外側の円の間に様々な活動が収まるようにしていこう、というのがサーキュラー・シティの目指す理想像です。

この都市版ドーナツ経済学モデルを都市政策に落とし込むために立ち上がったイニシアチブがThriving Cities Initiativeです。ケイト・ラワース氏が立ち上げたDoughnut Economics Action Lab(DEAL)、サーキュラーエコノミーを都市に実装させる事を目的としたCircle Economy、そして世界中の都市と気候変動対策に取り組むC40(都市気候リーダーシップグループ)が連携し、「シティ・ポートレート(City Portrait)」というフレームワーク・ツールが活用されます。
実際にドーナツの内側と外側の円に収まりながら幸せを追求するためには、そのエリアの場所、文脈(コンテキスト)、カルチャーやグローバルとの関わり方といった要素を加味する必要があり、それを考えるためのツールがシティ・ポートレートです。アムステルダム市以外にも、フィラデルフィアとポートランドでもこのフレームワークを使った取り組みが行われ、アムステルダム市はこのプログラムをベースにサーキュラー・シティの実現を進める考えです。
(シティ・ポートレートの詳細は本記事では割愛します)

2025年までの5カ年計画

2020年4月に発表された2020年-2025年のサーキュラー・シティ5ヵ年計画。
実際の資料は以下のリンクからご覧頂けますが、ここでは要点を幾つかまとめています。
2020年-2025年のサーキュラー・シティ5ヵ年計画(PDF)

過去数年間で約70ものプロジェクトを実施し、サーキュラーモデルは現実性と経済性も伴う道である事が確認できたとしています。

ターゲットになる「3つのバリューチェーン」

5ヵ年計画の中では、バリューチェーンを見直すべき重点領域を「①食と有機性廃棄物」「②消費財」「③建築」の3つに特定。各領域の方針を簡単にご紹介します:

(1)食と有機性廃棄物

方針:「フードバリューチェーンの短縮化」
既存の農地を活用した農業手法をより循環型に変えていく事に加え、アーバン・ファーミング(都市型農業)に活路を見出す事も挙げられています。都市や近郊農業による地産地消やサステナブルな生産手法を実現する施策は、フード・サプライチェーンの循環性を高めるだけでなく、地域の生物多様性を豊かにする効果もあり有効であると考えられています(都市型農業/アーバンファーミングに関する記事はこちらもどうぞ)。
また、アムステルダム市として、地元で生産された食品の購入を促す支援も行うことで地元食材・食品の認知向上だけでなく、都市型農業への参画も促進する狙いです。

事例:
Pluk! Groenten van West – コミュニティ支援型農業(CSA - Community Supported Agriculture)を運営。ユーザーは年間の会員費を払うことで、農家が代わりに育ててくれるオーガニック野菜・ハーブ・花を手に入れることができる。農家とユーザーを直接繋げながら地産地消型の農業を醸成するための取り組み。

Fairfood –「サプライチェーンの透明性」を高めるため、ブロックチェーンを活用して誰もが生産・梱包・輸送・販売などに関わる事業者や個人が特定できる仕組みを提供するスタートアップ。

Zuidoost Food Forest – 55ヘクタールに渡るエリアを地元住民の手でフードフォレストを作るプロジェクト。ガーデニング、パーマカルチャー、農業生態学、再生可能農業、アーバンランドスケープ、テクノロジー、マーケティング、アートなど異分野の職能を持つ人々が集まり、地域の生物多様性を高めながら自然再生を図る取り組み。

FOODLOGIA – 良質な食材をユーザーに届けるためのラストマイル・ソリューションを提供する、電動駆動による配送サービス事業者

方針:「プラントベース・フード(植物由来の食品)を食す文化へのシフト」
肉や乳製品、高加工食品の消費を減らし、動物性タンパク質から植物性タンパク質へのシフトを目指す。植物由来の栄養価を摂取する食生活に切り替える事で、健康面だけでなく、環境負荷を減らすベネフィットがあります。

FIT4FOODS2030 – 健康でサステナブルなフードシステムを支援するためのヨーロッパの研究・イノベーションプログラム。

Green Protein Alliance – オランダ内において、プラントペース・フードへのシフトを加速させるために25の小売業者、ケータリング、食品生産者と10のナレッジパートナー間で連携したアライアンス・ネットワーク。

方針:「有機性廃棄物の処理能力を高める」
有機性廃棄物を価値あるものに変換させるためには、分別が欠かせないため、2030年までに家庭の台所及び庭由来のゴミの73%を分別し、その処理能力を高める取り組み。

(2)消費財

方針:「市が率先して消費抑制の事例を示す」
2030年までに市が自らの調達を100%循環型に切り替え、調達による消費を20%減らす。

Amsterdam Made – アムステルダムを拠点とする150以上の生産者コミュニティ。コミュニティ間でよりサステナブルな生産方法や100%循環型を目指す上でやるべき事を追求している。

方針:「人々の消費の習慣を変え、資源への配慮を高める環境整備」
シェアリング・プラットフォーム、中古品店、オンライン・マーケットプレイス、修理サービスといった消費習慣を変えるための環境整備を行うことで環境負荷を減らす取り組み。

方針:「廃棄物の利用を最大限追求する」
2025年以降、修理できない商品は必ずアップサイクルされなければならない。そのために、テキスタイル、電子機器、家具、プラスチックなどあらゆる再利用可能な資源を分別回収し、再利用していく。

事例:
Fibersort –テキスタイルを自動で素材ごとに判別することができるテクノロジーを提供。

Fariphone – オランダのスマートフォン製造販売会社。B-Corporation認定も受けている同社は、商品を長く使えるようにユーザー自身が部品交換できるような仕組みや部品の再利用/リサイクルの実施、よりサステナブルなサプライチェーンの構築など、サーキュラー・エコノミーに寄与する取り組みを積極的に行っている。

(3)建築

方針:「循環型の建築基準を設ける」
ヨーロッパでは、建設産業から生み出される廃棄物が全体の50%を占めると言われており、このバリューチェーンを見直す事は急務と言えます。2022年以降、アムステルダム市における都市開発(都市交通含む)やパブリックスペースの設計案には循環型の建築基準を満たす事が求められます。

事例:
変化の早い現代において、既存の建築物はサーキュラー・エコノミーの実現に向けて大きな課題です。可変性や多目的利用を見越した建築になっていない事が多く、建築の機能的な変化が求められる際に柔軟性に欠けてしまう。こうした中で変化を前提としながら、工期を短縮でき、コストを抑えられるモジュール式はサステナブル建築の一つの手法として考えられています。

Finch Buildings – 木材を利用したモジュール式建築を提供

Sustainer Homes – サステナブル住宅を実現するために、建築家や建設事業者の設計を循環型建築へと変換するスタートアップ。

Crossover – AMが手掛けるCrossoverと呼ばれるミクストユース施設は、オフィスやアフォーダブル住宅が併設されており、使用材料の40%が循環型、98%が再生利用可能。

バイクスローテルハム – かつては最も汚染された工業地帯だったエリアが現在、循環型地区として再開発。サステナビリティやサーキュラー・エコノミーに関する研究・実験・イノベーション拠点として位置づけられ、ここから生まれた知見が他のエリアでも適用される構想が描かれている。

方針:「既存建築に循環型アプローチを適用させる」
2025年から50%のリノベーション及びビルメンテナンス案件は、アムステルダム市が掲げる循環型の建築基準に則るものとする。住宅、公共不動産、学校、パブリックスペースなど全てが対象となる。

事例:
・運河のリノベーション – 運河で有名なアムステルダムですが、向こう数年に渡って数百キロもの運河をリノベーションしていくプロジェクトが始動。循環型コンクリートの活用、ゼロ・エミッションの車両や道具を利用が前提となる。

成果のモニタリング
アムステルダム市がサーキュラー・シティを推進していくにあたり、戦略の成果を計測していくためのモニタリングシステムも並行して独自開発している点にも注目です。Monitorと呼ばれるこの仕組みは、現在も開発途中ではありますが構想を示すドキュメントも発表しています。上記で示した重点領域ごとに現在のサプライチェーンや使用資源を定量的に可視化しながら、課題と計測方法を炙り出そうとする試みが行われています。

今回は、2020-2025年における戦略概要のご紹介となりましたが、アムステルダムは実験都市として柔軟に、様々な先端事例を生み出す土壌が備わっているエリアです。プレイス・ブランディングを手掛ける私たちとしても継続的にウオッチしていますので今後もブログでシェアしていきます!

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ATTIQUE エリアデザイン・カンパニー

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