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市民参加の都市談議が、専門家に都市サービスの課題と機会を提示 ― 『Open House London』

2018-05-10

Founding Story

『Open House London』は、毎年9月、週末の2日間だけ、歴史的な建造物や優れたデザインの建築が一般公開される。建築家、政策立案者そして市民の壁をなくし、都市の議論を活性化するために、1992年に始まった。Open Cityという非営利団体が25年以上運営している。

Fact

参加者数25万人

首相官邸や最高裁判所といった官公庁のビルから、静穏な史跡、豪華な私邸まで、一定の水準に達した建築デザインを楽しめる。その数、800に達する。貴重な歴史的建築物の多いロンドンだけに、本イベントは人気を博し、2日間で25万人をも動員。

世界40都市に展開

海外からの熱心なボランティアが、そのあと地元でOpen Houseを実現すべく動き出したことが契機となって、2006年に『Open House Worldwide Family』なるネットワークが誕生した。現在、ロンドンだけでなくニューヨークやバルセロナ、ブエノスアイレスなど40都市で『Open House New York』といった姉妹イベントが開催されている(全世界で毎年およそ150万人が参加)。

Strategy

ボーダーレスな対話を引き出す仕掛け

ただ建築を見学させるだけでなく、イベント前週には、建築や都市開発の専門家を招いたディスカッションの場が設けられている。そこではフラットな対話を目指しており、あいにく参加できない人にも、事前にウェブから意見表明するツールが共有される。それによって、専門家も市民もそれぞれの立場を越えて、ロンドンをより良い都市にするために自分の言葉で語り合う場が生まれている。

9月のイベントをコアにしながら、小規模イベントを展開

住居デザインや交通インフラ、ランドスケープなど多様な切り口で、ロンドンの都市デザインを議論しあうのは、9月のイベントにとどまらない。『Open House Monthly』と題した、建築好きのための月次イベントは、継続的に開催されている。また、1週間におよぶ、より専門的なカンファレンス『Green Sky Thinking』や、子どもやその家族向けの『Open House Families』は春に開催され、1年を通してロンドンの建築・都市デザインを知的に楽しむ場がある。

Courtesy of Open House London

Photo: Courtesy of Open House London

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市民向けサービスを司るポストが続々準備

ロンドン市長は、夜働く人の環境保全や女性に安全な夜の街を実現するべく、夜の政策担当長官として『ナイトツァー』というポストを2016年に設けた。2017年には、同市では初めて『Chief Digital Officer』が着任したが、そのミッションには、デジタルテクノロジーの活用を通じた公共サービスの圧倒的な品質向上をが含まれる。市民のクオリティ・オブ・ライフを追求する重役ポストが続々と設けられているのだ。

社会派建築プロジェクトの実現

「Zaha Hadid Architects」は、特にクライアントがいるわけでもないが、市民の移動を分析。その結果、歩行者天国エリアを増やし、人々がもっと歩きやすく健康に生活できる街に変えよう、という都市計画を発表した。今でも誰もが『Walkable London』(ウェブサイト)で182ページにも及ぶ緻密な提案書を読むことができる。また、新進気鋭の「Assemble」は、スラム街の再生プロジェクト『Granby Four Streets』で、地元民たちと共につくった様々な廃材アイテムをオンラインで販売し、建築のみならずローカル経済をもデザインした。

area vision MEMO

高度化する都市においては、行政も建築・デザインも専門化が進み、個別最適に陥ったり、市民感覚を失ったりすることも多い。とかく歴史的建造物も傷つけないようにと、「守る」ことが優先されがちだ。

『Open House London』は、非営利団体という中立的な立場を活かし、歴史的建造物を「守る」のではなく「使う」ことを提案し、行政と不動産オーナー、建築家、市民を繋いだ。実際のところ、それほどの予算は必要なく、他都市でも不可能ではないと想像できるだろう。ロンドンは、知的なボランティアたちと綿密なプログラムがその差を埋め、建築というただの箱を、都市談議をみんなで楽しむ場に変えたのだ。